アリエッタ「恋はやさし野辺の花」(Hab’ ich nur deine Liebe)は、ウィーンで活躍したオーストリアの作曲家フランツ・フォン・スッペ(Franz von Suppé:1819-1895)のオペレッタ「ボッカチオ」の劇中歌です。
ボッカチオ(1313年 – 1375年)というと、世界史で出てきたと思いますが、ルネサンス期の著作家で『デカメロン』で知られているその人です。その人物を題材にオペレッタを作ったのが、スッペということです。
当然、色恋沙汰のおふざけ話ですので、ちょっとストーリーがここでご紹介するには、長すぎるので触れません。こちらが参考になると思います。
背景としては、コミック・オペラの後、19世紀後半から20世紀初頭にかけてウィーンではオペレッタが流行しました。通説では1858年、オッフェンバック(1819-1880)の『天国と地獄』(別名『地獄のオルフェウス』)がパリで初演された年をオペレッタ誕生年としているようです。
日本では大正4年(1915)に、日本のオペラ創立の功労者で、詩人、翻訳家の小林 愛雄(こばやし あいゆう、1881-1945)が「ボッカチオ」を翻訳して上演しました。
このオペレッタは後に浅草オペラのレパートリーのひとつとなり、当時の新進オペラ歌手、田谷力三が大正11年に「恋はやさし野辺の花」としてレコーディングしたことから、流行歌としても爆発的な人気を博しました。
戦後では、そのリバイバルとして、当時、相当高齢だったと思いますが、田谷力三さんが1970年代から80年代にかけて盛んにテレビに出て歌っていたと記憶しています。そのとき思ったのが、「品がないな。こんなことで、この歌をおとしめていないのだろうか?」ということです。
オペラということで、もっと格調高いものだけを言うものと思っていたのでしたが、オペレッタであり、もともと、娯楽の域で作られた曲なのに、どんな歌い方だってかまわないはずです。それが、戦前に行われていたという一点で、全て否定的な見方になるというのが、条件反射のように刷り込まれていたのかもしれません。教育ということが如何に強い力を発揮するか、あらためて考えると恐ろしいことです。